旧海難審判制度は規模縮小され(海難審判庁の廃止 2008年10月1日)、機能の相当部分が運輸安全委員会調査に移行することとなった(同委員会設置法1条)。海難審判は、受審人(海事従事者)を相手に申立てられるもので、海難の原因を究明することにより、海事従事者である船長(外国船の水先案内人を含む)、機関長等の資格を譴責ないし懲戒(戒告、業務停止、免許の取消)することのための、イギリス発祥の伝統的制度である。
言い換えれば、海難審判は、行政機関が行う行政審判であり、懲戒ないし処分をするのが適切であるか、当事者の参加する準司法的作用を有する手続であるが、委員会は、原因究明はするものの、海難事故の各当事者(海技士)の航法に関する適否(海上衝突予防法、港則法等)についての判断を、回避することもありうる。
問題は、審判所の裁決と委員会の判断が区々になった場合である。ましてや、外国船との衝突の場合は、審判手続の対象外事件であり、委員会は航法判断を回避することもありうるのだから、航法判断をしないまま、同種の海難の再発防止ができるのか、首を傾げざるを得ない。
なお、日本国の海事従事者としての資格を有しない者、海難事故の発生に関係したと思料される者は、受審人ではないが指定海難関係人として、審判に関与するすることになる。例えば、船舶機関の製造者、整備業者等が指定海難関係人となる。
理事官が帰属する従来の理事所は、廃止され、審判所に統合された。
審判長の裁決は、一審限りとなり、2審性は廃止され、不服のある理事官、受審人は、審判当事者として東京高等裁判所に対し裁決の取消訴訟を提起するほか、途はなくなる。
海難審判庁は、審判官、理事官(審判申立人。いわば検察官役)、受審人側の海事補佐人が付添うことになる。なお、海事補佐人は、海事従事者である船長、機関長のほか弁護士も申請により就任することができる。
審判官・理事官は2分の1、事務官は3分の1に減員された。 また、審判対象事案は、漁船に関するものが大半になっていると聞く。加えて、海事補佐人付審判数も激減していくのであれば、表面上は、海事補佐人の活動を主とする弁護士達も仕事を減らされたことなろう。
運輸安全委員会は、船舶事故、列車事故、航空機事故の調査をすることになる。
海上、航空、列車を問わず、大量交通機関の交通事故は、再発防止を目的とし、その限度で原因究明をすればよい、委員会であれば、海事従事者の免許に関する譴責のための調査手続は、不要であり、海難審判の調査は屋上屋であると位置づけたのではあるまいか。
弁護士の職域を担っていた海難審判の海事補佐人の業務は、審判事件の目減りに比例して、縮小しているのは火を見るより明らかである。 業務過失致死傷の刑事事件、損害賠償の民事事件の先行的手続であった、位置づけが大幅に変容することにならざるを得ない。
海難事故の当事者(過失無き被害者)は、自船、海事従事者としての損害や名誉は、どのような影響を受けるのだろうか。
むしろ、運輸安全委員会の調査のみで、原因究明の措置がなされ、海事免許に関し責任を問われなければ、海難事故を起こした船舶会社やその所属する海技士は、海難審判のカバーする範囲が縮小されることを、歓迎するという、面もあるのだろう。
国土交通省 運輸安全委員会





